初回生産限定盤 [CD2枚組 / 紙ジャケット仕様]:ESCL-5965〜5966 ¥4,700+税
通常盤 [CD]: ESCL-5967 ¥3,000+税
DISC 1
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01. Now Here
作詞:YUKI
作曲・編曲:U-Key zone
Programming & All Other Instruments:U-Key zone
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02. 雨宿り
作詞:YUKI
作曲・編曲:U-Key zone
Programming & All Other Instruments:U-Key zone
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03. 流星slits
作詞:YUKI
作曲:Jon Hallgren, Sofia Vivere, Victor Sagfors
編曲:前田佑
Programming & All Other Instruments:前田佑
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04. Hello, it’s me(FANCL 新スキンケア「toiro」CMソング)
作詞:YUKI
作曲:小林樹音 (JitteryJackal), 栗原暁 (Jazzin’park)
編曲:前田佑, 小林樹音 (JitteryJackal)
ブラス編曲:五十嵐誠
Programming & All Other Instruments:前田佑
Guitar:Taiga (Blue Vintage)
Bass:高間有一
Trombone:五十嵐誠
Trumpet:中野勇介, 田中充
Flute:副田整歩
Alto Saxophone:後藤天太
Brass Coordination:土岐和之 (ReBIRTH)
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05. ユニヴァース
作詞:YUKI
作曲:Maria Broberg, Kyosuke Yamanaka, Carlos Okabe
編曲:皆川真人
Piano, Keyboard & Programming:皆川真人
Electric Guitar:浜口高知, 福田真一朗
Bass:斉藤光隆
Drums:小松シゲル
Flute:山本拓夫
Percussion:朝倉真司
Chorus:竹本健一, 稲泉りん
Musician Coordination:土岐和之 (ReBIRTH)
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06. 追いかけたいの
作詞:YUKI
作曲・編曲:増渕ヒダリ (higimidari)
Programming:金田ミギ (higimidari)
Electric Guitar:増渕ヒダリ (higimidari)
Bass:山口寛雄
Drums:玉田豊夢
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07. 金色の船
作詞:YUKI
作曲:安良岡修
編曲:トオミヨウ
Piano & Organ:トオミヨウ
Electric Guitar, Mandolin:石成正人
Bass:須長和広
Drums:伊藤大地
Strings:室屋光一郎ストリングス
1st Violin:室屋光一郎, 徳永友美
2nd Violin:小寺里奈, 村田晃歌
Viola:島岡智子, 鈴村大樹
Cello:堀沢真己, 水野由紀
Strings Coordination:関谷典子 (FACE MUSIC)
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08. One, One, One
作詞:YUKI
作曲:YUKI, 前田佑
編曲:前田佑
Programming & All Other Instruments:前田佑
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09. 友達
作詞:YUKI
作曲:小椋健司
編曲:名越由貴夫
Organ:細海魚
Guitars:名越由貴夫
Bass:キタダ マキ
Drums:中幸一郎
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10. パ・ラ・サイト
作詞:YUKI
作曲:New K & OHTORA
編曲:皆川真人
Piano, Keyboard & Programming:皆川真人
Electric Guitar:浜口高知, 福田真一朗
Bass:斉藤光隆
Drums:小松シゲル
Musician Coordination:土岐和之 (ReBIRTH)
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11. こぼれてしまうよ
作詞:YUKI
作曲:キクイケタロウ
編曲:皆川真人
Piano, Keyboards & Programming:皆川真人
Electric Guitar:西川進
Bass:山口寛雄
Drums:佐野康夫
Cello:伊藤ハルトシ
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12. 風になれ(NHK「みんなのうた」2024年6~7月放送)
作詞:YUKI
作曲:小椋健司
編曲:鈴木正人
Piano & Organ:松本圭司
Electric Guitar:石井マサユキ
Bass & Programming:鈴木正人
Drums:伊吹文裕
Trumpet:村上基
Trombone:大田垣“OTG”正信
Tenor Sax:武嶋聡
Produced by YUKI
Vocal Recording Engineer:原田しずお (Sony Music Solutions)
Recording Engineer:渡辺省二郎 (fabrik) [M5,10,11], 原田しずお (Sony Music Solutions) [M5], 西川陽介 [M6], 奥田泰次 (studio MSR) [M7,12], 浦本雅史 (Soi Co.,Ltd) [M9]
Recorded at STUDIO ARNEST, Sony Music Studios Tokyo, 音響ハウス, Studio Tanta, 青葉台スタジオ
Mix Engineer:大西慶明 (prime sound studio form) [M1,2,3,4,8], 渡辺省二郎 (fabrik) [M5,10,11], 西川陽介 [M6], 奥田泰次 (studio MSR) [M7,12], 浦本雅史 (Soi Co.,Ltd) [M9]
Mixed at prime sound studio form, 音響ハウス, Sony Music Studios Tokyo, studio MSR
Mastering Engineer:阿部充泰 (Sony Music Studios Tokyo) at Sony Music Studios Tokyo
Art Direction & Photographer:戎 康友
Design:NEWTONE
Hair:ASASHI (ota office)
Make-Up:UDA (mekashi project)
Stylist:山本マナ
DISC 2ライブ音源・初回生産限定盤のみ
YUKI LIVE “little night music”
2023年9月16日 東京・Zepp DiverCity
01. タイムカプセル
(作詞:YUKI 作曲:HALIFANIE)
02. プレゼント
(作詞:YUKI 作曲:HALIFANIE)
03. ラスボス
(作詞:YUKI 作曲:永野雄一郎)
04. 忘れる唄
(作詞・作曲:YUKI)
05. Dreamin’
(作詞・作曲:峯田和伸)
06. 私の瞳は黒い色
(作詞:YUKI 作曲:成海カズト)
07. さよならバイスタンダー
(作詞:YUKI, 作曲:飛内将大)
Performed by YUKI & The Good Evenings
Vocal:YUKI
Keyboards:皆川真人
Guitar:浜口高知, 福田真一朗
Bass:斉藤光隆
Drums:小松シゲル
Manipulator:福原充 (青葉台スタジオ)
Live Recording Engineer:夏山晴伎 (青葉台スタジオ)
Live Recording Staff:黒田花穂, 菊地茉優 (青葉台スタジオ)
Live Mix Engineer:福原充 (青葉台スタジオ)
*ライブ音源のため、原曲の歌詞とは異なる場合がございますがご了承ください。
special interview
5月にリリースした両A面シングル『こぼれてしまうよ / Hello, it’s me』の2曲に加え、10曲の新曲を収録した12枚目のオリジナルアルバム『SLITS』。ダンスミュージック、ロック、ポップス、スウィートソウルなど、さまざまなサウンドの中で、YUKIが日常の中で感じていること、考えていること、想いが詩に込められ、あらゆる言葉となって紡がれている歌詞。アルバムを完成させたYUKIにその想いを訊きました。
Interview:矢隈和恵
── 前作『パレードが続くなら』から1年4ヵ月、ニューアルバム『SLITS』が完成しました。今作のレコーディングは、どういうアルバムを作ろうというところからスタートしたんですか?
YUKI「さかのぼると、20周年を迎える前にアルバム『Terminal』をリリースして、ツアー“Terminal G”があって、それをやりながら20周年の準備を進めて、2022年は20周年のライブと同時進行でEPをリリースしたり、アルバム『パレードが続くなら』を作ってという感じで、それぞれが少しずつ重なりながらプロダクツが走っていたんです。もともと20周年の締めくくりにアルバムを出そうということは決めていたので、ライブと並行して進めた曲作りのインプットはほとんどがライブからでした。それで出来たのが『パレードが続くなら』なんですけど、そこを一区切りにして私は吸収の時間に入ろうと思っていたんです。いろいろなところへコンサートを観に行ったり、いろいろな映画を観たり、何か自分でテーマができるまでゆっくり曲作りをさせてほしいとスタッフにも伝えて。なので、2023年に入ってからは、いろいろなところに旅行したり、たくさんのアートに触れながら、一方で作曲家の方と何度も会って曲を一緒に構築して作ってみたり、プリプロダクション(以下プリプロ)には時間をかけるということをしましたね」
── そういうやり方は今までにはなかったことですか?
YUKI「どちらかというと、20周年にライブと同時進行で作った『パレードが続くなら』が本当に特別でした。曲作りに専念するというよりは毎週末ツアーで各地へ行って、生身のお客様を目の前にしていたので、やっぱりいつもとは違っていましたね。なので、どちらかというと通常のアルバムの作り方に戻すという感じでした。曲を吟味してゆっくりプリプロをして、調子がいいと1日4曲とか5曲とか。私は1曲のテーマができるまではそんなに時間がかからないほうだと思っていますけど、今回はプリプロに時間をかけることができたので、この曲は良い曲になりそうだからもうちょっと手をかけてみようと踏み込んでみる曲たちが増えて、そういった曲たちも今回のアルバムには残っています。プリプロで作業していた曲は、このアルバムに入っている曲の倍以上はあると思います」
── そこから今歌いたい、今伝えたい12曲が残ったんですね。
YUKI「今の自分の気分に合っている曲たちです。でも、たくさんの曲をどんどん歌ってみるという作業はいつものことですね。歌詞を書いて歌うことは、私にとってはとても楽しいことなので。そこにリズムとメロディがあったら詩を書いて歌うというのが、どうやら私にとってはもう普通のことのようで。今回は、この曲はいいけどもっとこうしたいなとか、この曲は今じゃないなとか、そういう判断もゆっくりできました。
── じっくり吟味して1曲1曲作っていって、そうすると、逆にこの12曲に絞るのは大変だったと思うのですが、どういったコンセプトのもと、この12曲になったんでしょうか。
YUKI「ここ数年は、仕事とプライベートのグラデーションがマーブル模様みたいになっていて、作品作りは私にとって普通のこと、日常になっているんです。何を見ても、聞いても、誰かと話しても、全てが曲作りにつながる。そうすると、テーマが自然と浮かび上がってくるというか。そして今回は、自分がやりたいなと思う曲だけでなく、“こういう曲をYUKIが歌うのはどうだろう”という曲をスタッフに提案してもらいました。実は、今までそういったことはあまりやったことがなかったんです。だから、私だったら選ばなかったなという曲も、今回のアルバム『SLITS』には収録されています。
── 新しいことにトライしながら、より広がりを持って曲たちが集められていったんですね。
YUKI「私は、自分のやりたいことと求められていることの差にとても苦しんでいる、という相談を受けることがよくあるんです。やはり求められていることというのは、自分からは見えていない客観的な自分なので。たとえば私も、「YUKIのこういうところが好きだ」「こういう音域のYUKIの歌を聴きたいんだ」というのは、自分ではわからないところも多いんです。だから今回は、そういう意見も聞いてみて、やらずにNGにするのではなくて、やってみて、どうしてもできないものはやらない、というふうにしてみたんです。そのくらい、制作にかけられる時間の余裕もあったので。それが本当によかったと思っています。私、自分で好きだなと思う曲、自分が歌っていてこっちに行きたいなと思うメロディが、実はあまりポップではないと思うんです。好きなものと似合うものというのは時々乖離するんですよね。自分だけで、こういうことを歌いたいとか、それだけになってしまうことも、それはそれでもちろん凝縮されていていいとは思うんですけどね」
── では、アルバムの曲を1曲ずつ聞いていきたいと思います。1曲目の「Now Here」からYUKIさん節全開ですが、これまでにありそうでない、新しいダンスミュージックに仕上がっていますね。
YUKI「この曲のアレンジはU-Key zoneさんにお願いしました。ずっとリズムキープしていて、リズムが止まらないダンスミュージックにしていただきました。ポップスの歌ものから外れたいなという思いがあったので、いきなりサビから始まって、ずっとサビで展開しているようなイメージです」
── メロディが自由に動き回っていて、掴みきれない不思議な感じがワクワクしました。
YUKI「どこに行くんだろう? そこからそんなところに行く? というような構成は、わざと作ってみました。今回アルバムを作っていて出てきたテーマは、やっぱり私の日常からなんですけど、体を動かすこと、運動からも来ていますね。運動を習慣化させるまでに、最初は無理やり頑張っていたこともあるんです。そのうち、何かつらいことがあったときや本当にどうしようもないとき、筋肉を動かすことでそのつらいことがどうでもいいなと思えるようになることもある(笑)。少しずつやり続けてきたトレーニングが、私の精神状態にもとてもいいことなんだと思い始めて、歌詞にもそれが出ています。瞑想がテーマですね(笑)」
── 〈目を閉じて 心に接続(アクセス) / 今 此処 此処にいる私を抱きしめる〉という歌詞は、そう言われると瞑想ですね。
YUKI「歌詞を書くことは私にとってセラピーであり、自分の心に問いかけをする作業でもあって、それは瞑想につながっているのかもしれないですね。「Now Here」は、今私が思っている全てのことを詰め込んだので、勢いもあって1曲目に相応しい曲になったと思います」
── YUKIさんのパワーが感じられます。
YUKI「この数年、私が感じていた不自由さや閉塞感から、自分のたくましいこの創造力を自分なりに駆使して、音楽、曲、歌の世界を作るぞということはずっと思っていました。歌の世界では全て自由だということもここ数年の何枚かのアルバムには詰まっていましたけど、それをさらに何か、表現できる言葉はないかなと思っていたときに、女性が深くスリットの入っているスカートを履いていて、スリットってすごくセクシーでカッコいいなと思ったんです。タイトスカートの場合、スリットが入っていなかったら足を動かしづらいから、それを自由にするためにスリットが入っている。でも、自由にするためだけではなくて、強さや、自分のことをわかってほしい、見せたいという意思もあるんじゃないかなと思って。それで、スリットっていいなと思ってメモしておいたんです」
── それでアルバムタイトルになったんですね。
YUKI「タイトルにするときに、スカートのスリットは私にとっての自由を表すことだなと思ったんですけど、スリットという言葉の意味を調べたときに、シュッと入っている切り傷みたいな「傷」という意味もあって。今回、歌詞にも「傷」という言葉がところどころに入っていて。今までもあったとは思うんですけど、私は歌詞を書くときに、残っていくそういう傷たちが愛しいなと振り返ることも多いので、今回は自分の傷たちというのもテーマにあっていいなと思いました。だから、いろいろな意味を持つタイトルになりましたね。スカートから始まって、スカートに切れ目を入れることで足が動かしやすくなるように、自由なアルバムにしたいということと、重苦しい空気を私が切り裂いて、風穴を開けて風通しをよくして、気持ちのいい、楽しい気持ちに、という意味もあります」
── YUKIさんが言いたいいろいろな思いを表している言葉なんですね。
YUKI「候補はいろいろあったんですけど、スリットと出会ってしまったら、もうぴたりとフィットしてしまって、そこからさらにアルバム作りがスムーズになりました」
── 今回の歌詞は、YUKIさんの言いたいことが詰まっているので、曲を聴いて出てくるものというよりは、練りに練られて書いたんじゃないかと思っていたんですが。
YUKI「もちろん練っているところもあります。歌入れが終わって、さあ、これからミックスだというギリギリまで練ったものもあります。何度か歌い直して、やっぱりここの歌詞はこういう言い方にしたいので、変えたい、と言って変えたものもあります。それは今までよりもあったかもしれないですね。そういう時間もかけられる時間があったということがすごく大きいかもしれないです。といっても、1週間に2曲とか3曲のペースで歌入れをやっていて、ひらめきと冴えがもう止まらないんですよね。頭の中が冴えわたっていて、すっきりしていて、靄みたいなものが全くない。だから、やりたいことがどんどん出てきて時間がないんです」
── 2曲目の「雨宿り」は、1曲目からグルーヴが続いているようなダンスミュージックです。
YUKI「これもU-Key zoneさんの曲です。この印象的なフレーズは、オリエンタルな感じが好きだったので、デモの段階では少ししか入っていなかったんですけど、それをメインにしたいなと思って増やしました」
── このストーリーはどういうところから浮かんできたんですか?
YUKI「デモ音源で、たしか〈Follow me〉と歌われていたと思います。その〈Follow me〉という部分がハナモゲラで歌っていったら〈あ・あ・あ・あまやどり〉というふうに変わって、「雨宿り」って素敵だなと思って、そこから広げていきました。まずは男女の待ち合わせから始めて、そこからこの2人がどういう感じになっていくのかなと考えていって。どの街にもだいたいアーケードがあるんですよね。アーケードは商店街になっていて、ずっとお店が連なっていて、雨が降ってきたときに逃げ込んだりできるんです。アーケードで雨宿りしながら、2人で遊んでいるのはいいなと思って。男の子はちょっと影のある不良っぽい子で……」
── 女の子はちょっと不良っぽい男の子が好きですよね。
YUKI「女の子は小さくてもませていたりしますよね。だからということでもないと思いますけど、小学生っぽさというのは女性からはいつのまにかなくなっていくと思うんですけど、男の人にはいつまでたっても小学生っぽさがあるというか、そういう部分が残っている人も多いような気がして。そういうちょっとやんちゃな男の子なんですけど、2人は信頼し合っていて、女の子のほうがちょっと成熟していて」
── ここでも〈隠し持っている少年の膝小僧 擦りむいて残る傷はアート〉というように「傷」という言葉が使われています。
YUKI「誰でも傷跡って残っていますよね。転んで足についた傷跡とか、火傷した跡とか。それは女性もですけど、そういう傷がアートになっているといいなと思って。実際の傷というよりは、彼の目の奥にあって輝いているものというか」
── 歌詞を見ていると本当にミュージカルみたいですよね。アーケードをくるくる踊りながら場面が展開していくような。
YUKI「そうですね、まさに。なので、エキストラではありますけど商店街の人たちも登場人物として出したいなと思って、いろいろなお店を並べてみて、歌詞にはそこからチョイスしていきました。みんなで手を取り合って踊るのはかわいいなと思って。あと「皆まで言うな」ということも入れたかったです。わかり合うというのはすごく大事だけど、人の心が100%わかることは不可能に近いので、なるべく察してあげたりとか、そこをすくってあげて、わかるよと言ってあげたりとか。全く違う考えだとしても、そういう考えもあるんだねと言ってあげるとか。別に我慢して自分を犠牲にするということではなくて、尊重し合うということですね。こういうことを言ってしまったなとか、でもそれを自分が言われたら嫌だなと思ったら、自分が言われて嫌だなと思うことを言わないようにすればいいんだなと思ったんです。それは、半径3メートルぐらいの、特に大切にされたい人に対してですけどね。ここのメロディは最初からあったんですけど、プリプロのときは保留にして歌詞も入れていなかったんです。でも、ここでこういうことが言えるかもしれないと思って、〈大切な人に 大切にされたいと思うから / 言われて嬉しい言葉 相手に 自分からも言ってあげなくちゃ〉という詩を入れたら、すごくハマりました」
── この歌詞があることでグッと深みが出るというか、心が掴まれる2行でした。
YUKI「こういうところで何を歌うかというのを考えるのは楽しいんです。でも、ここに入れる言い方はいろいろな言い回しができると思って、最後の最後までどれを入れるか悩みました。意味は同じで、こういうことを言いたいんだということがあるんですけど、いかにメロディに合っていて、それが聴いていて頭に入ってくるかどうか」
── 言われると当たり前のことのようですけど、あらためて聴くと、忘れていた気持ちですよね。
YUKI「これは回り回って自分のために言っています。そういう言葉を相手にかけていたら、その人からもそういう言葉が返ってくるんです。これは不思議な法則なんです。それに気付いていると、とても自分が楽だと思います。これがわかっていたら、もっと優しくし合えると思うんです」
── また、雨を感じるようなオリエンタルなアレンジが、懐かしい感じのサウンドにもなっています。
YUKI「いいですよね。これは歌詞が出来て、そこから歌詞に合わせて音やアレンジを変えてくれているので、きちんと「雨宿り」な感じに仕上がりました」
── そして、3曲目の「流星slits」には、アルバムタイトルにもなっている「スリッツ」という言葉が入っています。
YUKI「私の中では「Now Here」「雨宿り」「流星slits」でまとまった3部作です。この曲は、これがアルバムの1曲目でもいいかもしれないと思うぐらい気に入っています。この曲で書きたかったことは「Now Here」と重複する部分もあって、これは座って動かない瞑想ではなくて、動きながらの瞑想を書いています。〈目は開けたままで 夢見よう〉というところは気に入っていますね。目を閉じるのではなく、全てをきちんと見ること」
── YUKIさんが思い切り星を放り投げているような(笑)、勢いを感じるような曲ですよね。
YUKI「〈流星をthrowing〉という歌詞はまさにそういうイメージです。流星は、空にひっかき傷をつけているみたいにも見えますよね。空を見ていたときに、飛行機雲がスリットみたいに見えて、雲もいいなと思っていたんですけど、流星もそうだなと思って。それで「流星slits」になりました。私が星を思いっきり投げて流星にしている感じで、ちょっと面白い曲にしたかったです」
── YUKIさんならではのダンスミュージックになっていますね。
YUKI「デモではイントロがなくて、最初のシンセのフレーズがあったぐらいでした。〈まだmoving〉という詩を思いついて、それが印象的なフレーズとしてずっと入っているのはいいなと思ってイントロにも持ってきましたね。こういうダンスミュージックは言葉遊びをしたほうが面白い曲になるなと思って、気楽に聴ける感じに仕上げました」
── サラリとYUKIさんのラップも入っていますね。
YUKI「日本語と英語を混ぜるのは面白いなと思ったんですけど、すごく難しかったです。日本語になると、どうしても1ワードずつ頭の母音が目立ってしまって、そこから脱出するのが大変でした」
── ダンスミュージックというのは、YUKIさんの中でブームだったんですか?
YUKI「私の中にダンスミュージックはずっとあると思います。20周年のツアーは私の代表的なシングル曲やフックとなるような曲、これまでやってきた各ツアーの印象的なシーンをアップデートしてお客さんにお見せしようというコンセプトで構成したんですけど、それを作っているときに、やっぱり私と打ち込みの歴史というのはもう15年以上にもなるので、自分の中の選択肢としてそれは常にありますね。生バンド演奏ではない曲たちのレコーディングをやり始めた頃から、もうずっと追求しています。自分にとってのダンスミュージックはどういうものかなと思って、ずっとやっています。今回はそれのさらに進化系という感じだと思いますね」
── しかもすごくテンションが上がる曲ですね。
YUKI「シンセの効果が大きいんじゃないですかね。こういうシンセのコードはもれなくテンションが上がるんじゃないかと思っているんですけど(笑)。ベースとシンセが本当によく効いている曲だと思います」
── 今回のアルバムでも、曲によっていろいろな「私」という主人公が出てきますが、どの「私」もすごく凛とした印象ですね。
YUKI「「流星slits」は、すごくクールな女の子の歌詞ですね。これを書いているときは、タフでセクシーな子というイメージが確かにあったかもしれないです。この歌詞も、トレーニングと有酸素運動のことを書いていますね(笑)。〈追いこまれ 燃えるカロリー この程度はwarming up〉ですから。全て土台にダンスやトレーニングが入っています。今の私もかなり出ています」
── ただ、「暴れたがっている」のときのような、あの頃のYUKIさんとはちょっと違う暴れ方をしている感じがしました。もちろん今回も音楽の中で自由に暴れてはいるんですけど。
YUKI「根本的には自分なので変わっていないかもしれないんですけど、希望がさらに確信めいているという感じですね。「暴れたがっている」は思春期の自分で、まだ戦っている。このあり余るエネルギーをどうしていいのかわからなくて暴れたがっているんですけど、「流星slits」のこの子はそうではない。というか、今の私はそうではないんです。確かにエネルギーがあり余ってはいるんですけど、あり余っているこれを何に使うかということをわかっているんです。自分の宿命とか運命というものを受け入れている。だから〈運命に急かされ〉となったのかもしれないですね。今の私は特にそうかもしれないです」
── そして、「Hello, it’s me」は、FANCLのCMソングにもなっている、爽やかで元気が出る曲です。
YUKI「「Hello, it’s me」は「もしもし」なんですけど、これは自分に対して「もしもし、私、今どういう感じなの?」というふうに、自分を気遣って、問いかける世界観の曲にしたいなと思いました」
── CMの雰囲気にもぴったりな曲ですね。
YUKI「とても素敵なCMですよね。杉咲花さんもすごく素敵で。本当に現代の若い女性たち、現代だけでもないですけど、ずっと仕事もして、プライベートでもいろいろなことがあって、働く女性の自分との向き合い方というのは本当に十人十色だと思うんです。どうしようもない自分がいたり、頑張れない自分がいたり、そういうのはいつの時代も同じだと思いますし、それでいいんです。今はSNSが発達して、自分は人と比べてあまり幸せではないのかもしれないと思わされることも多いと思いますけど、SNSの良いところは、そういう人の幸せを良かったねと思えたり、自分は自分なんだと、確固たる自分というものを追求する気持ちが逆に強くなると思うんです。昔は人の生活や行動なんてあまりわからなくて、話さないとわからなかったけれど、今はお互いのSNSを通じて、好きなものや生活が垣間見える。でも、少しの想像力があれば、人の生活というのはSNSで見えている部分というのはほんの一部であって、見えていない大半の部分でもすごくたくさんのことを感じながら頑張っていると思うんです。この曲をCMに使っていただけて本当に嬉しいです」
── 女性の華やかさを感じるような、元気が出る曲ですよね。
YUKI「最初は曲の雰囲気もアレンジも違ったんですけど、はつらつとしていて、力強さを感じるようにしたいなと思って、アレンジを変えて、ホーンも入れたかったので、今まで何度かご一緒したことのあるトロンボーンの五十嵐誠さんにホーン部分のアレンジをお願いしました。そうしたらベースラインがすごくカッコよくなって、すごく気に入ったので、よく聴こえるようにベースの音はミックスのときに音量を大きくしました。この曲は、作っていくうちにどんどん良くなっていきましたね。歌詞の〈足りないものばかり数えて / 美しい自分だけの宝物 見えないの〉というところは、私自身のことでもあります。どうしてこうじゃないんだろう、こうだったらもっといいのに、ということに、どうしてもフォーカスを当ててしまうときがやっぱりあるんです。ちょうどそういうことを思っていたときだったので、こういう歌詞になったんだと思いますね。でもそうやって人と比べれば比べるほど、実は自分の良さもわかってくる。やっぱり私は私だけのもので、誰のものでもない。そういう人になりたいですし、そういう思いは忘れたくないなと思っているんです。この曲はコンサートを想定して作りました」
── ポップスに収まらず、ホーンも入れて、ソウルフルになって、YUKIさんらしい仕上がりになっていますよね。まさにライブが浮かぶようです。
YUKI「そこはこだわって作りました。自分以外の声も入れたくて、その日レコーディングスタジオにいたスタッフたちをかき集めて、「Hey! Hey! Hey!」というコーラスをいきなり歌ってもらいました(笑)。スタッフも突然で何が何だかわからないまま私にレクチャーされて「Hey! Hey! Hey!」と歌っていましたね(笑)」
── この曲は、他の曲に比べてシンプルで、言葉もすごくストレートに入ってきて元気が出ます。
YUKI「何を言っているのかわかるように、レコーディングでもすごく気を付けて歌いました。なのでこの曲は、言葉を乗せる譜割もすごく気にしています。ダンスミュージックは譜割より、やっぱりノリの方がすごく大事になってくるので、言葉が少し聴きづらくてもノリを優先してしまうことが多いんですけど、この曲は何を言っているか、きちんと聴いている人に届いてほしいと思って、意識しましたね」
── 「ユニヴァース」という言葉は、どこから出てきたんですか?
YUKI「人の一生は、大きな宇宙から見れば、本当に塵みたいに小さなものだと思うんです。本当に小さいけれど、でも一部ではあるんです。なぜ人間ができたのかもわからないし、なぜこんなにも知能が発達している生物が人間だけなのかも本当に不思議ですけど、おそらくそれは必要なことであって、つながっている。私に起こる全てのことも、その一部だということです。宇宙の歴史から見たら、私たちの人生なんて一瞬です。その一瞬の中に私の凝縮された人生があるわけなので、その中で出会った本当に数少ない人たちのこと、出会ったけどもう会えない人たちに対しての歌ですね。自分の中にいるもう会えない人たちというのがいて、でも、つながっているということです」
── 歌入れはどうでしたか?
YUKI「コーラスの存在感があったので、私の歌はその中を流れる涼しい存在になりたいと思いました。それはすごく意識して歌入れをしましたね。暑苦しくないシャウトにしたかったです。70年代のソウルミュージックで涼やかに軽やかに、まっすぐな感じで歌っているイメージというか。ちょっと少年みたいな感じで歌おうと思いました」
── そして次は「追いかけたいの」。軽やかなバンドサウンドでかわいらしい曲ですね。
YUKI「この曲を作曲したお2人は、higimidariというユニットで、金田ミギさんと増渕ヒダリさんという2人組なんですけど、あまりこういうふうに他の方に曲を提供することはなかったみたいで。そんな中、一緒にリズム録りにも立ち会っていただきました。おしゃれな2人組がちょこんと座って、どうでしょうか? みたいな感じで、そういうやりとりは楽しかったです。なかなか不思議なメロディをつける2人で、レコーディングは面白かった印象です。イントロは、今はギターが入っていますけど、最初はイントロそのものがなかったんです。少しリバーブがかかっている感じで、浮遊感があって。ボーカルもずっと淡々としているようなイメージがあったので、それは崩さないように歌いました」
── 「追いかけたいの」という言葉はどこから出てきたんですか?
YUKI「何かのときに複数人で雑談をしていて、恋で追いかけるか追いかけられるか、みたいな話になって。それが残っていたのかもしれないですね。ちなみに私は追いかけたいです(笑)。この曲はデモを聴いてすぐにラブソングにしようと思いました。〈追いかけても〉という言葉が出てきて、〈追いつけないよ ベイビー〉というフレーズがすぐに出てきたので、そのまま「追いかけたいの」になりました」
── 「金色の船」は、歌はもちろん、素晴らしいピアノの音色が印象的な楽曲です。
YUKI「良い曲ですよね。アレンジはトオミヨウさんです。イメージとしては70年代のバンドサウンドにしたかったので、そういうイメージを伝えたら、トオミさんから届いたアレンジデモがもう素晴らしくて。歌入れもイメージ通りにできて最高だったんですけど、家に帰って自分の歌声の入ったラフミックスを聴いたら頭の中で弦が聴こえてきてしまって」
── 聴こえてきちゃったんですね。
YUKI「聴こえてくるな、どうしようかなと思って。「すみません。なんかダブルカルテットのイメージがあるんですけど」とトオミさんに言ったら、「わかりました。僕にもそのイメージがあるので大丈夫です」と言ってくださって、追加で弦を入れていただくことになりました。トオミさんに私の歌入れ後のラフミックス音源を聴いてもらったら、「歌がすごく良かったから、もう瞬間で譜面を書きました」と、弦のアレンジがすぐに出来たと言ってくださって、すごく嬉しかったですね。しかもストリングスの録音で皆さんの生演奏を聴いたら、本当に船が見えました。涙が出ましたね。弦を入れることができて、本当によかったです」
── すごく風景が浮かぶような、空気感がある歌詞とサウンドですね。
YUKI「最初からこの曲の世界はある程度見えていました。時間旅行のようなイメージがあって。これが言いたいとか、自分の主張が溢れ出ているわけではなくて、ただ美しい言葉を並べるというのもポップスにはすごく大事なことだなと思います」
── サビの〈戻れるなら〉という言葉も最初からもうあったんですか?
YUKI「最初のほうに出ていましたね。本当ならサビは、〈戻れるなら〉からまた違う歌詞が続くと思うんですけど、私は〈戻れるなら〉と3回歌っています。3回繰り返すことによって、どれだけ〈戻れるなら〉と思っているんだろうと、より思いが強調されるんですよね」
── より切ない感じになりますよね。
YUKI「転調してからストリングスが入るところなんて最高ですよね。この場面展開は本当に素晴らしいです。紙テープを離したくないという心情がここで描けてすごくよかったなと思います」
── 8曲目は「One, One, One」という打ち込みの曲です。この曲はYUKIさんの作詞作曲ですね。
YUKI「これは昨年の春に、前田佑くんのハウススタジオでゆるく曲作りを始めてみましょうか、という感じで作業に入って作った曲です。前田くんは、20周年ライブのオープニングSEやバックドロップの映像で流れるときの音を作ってもらったりして、何度もご一緒しているので話しやすいですし、尊重してくれますし、私の言うこともすぐにわかってくれるので、とてもやりやすかったです」
── 作曲がYUKIさんということは、一緒に作りながら、YUKIさんがメロディを作っていったということですか?
YUKI「正確に言うと、前田くんが「こういうトラックを作ったんですけど、ちょっと聴いてみてください」と聴かせてくれたんです。聴いてみたらすごく好きな音だったので、その場で、このコード進行にメロディを付けていってみようか、という感じで、私がその場でどんどん歌っていくという作り方をしました」
── メロディを?
YUKI「はい。こういうトラックって、どこに歌が入るのかは想定しないまま、自由度が高い感じで作ってあるんですけど、ここがイントロとか、ここがAメロとか、決まっていないんです。そういうやり方もあるんだということを知ったときに、やってみたいなと思っていて。すごく自由度が高いので、自分の歌でどこへ行ってもいいし、法則もないんです。今のはよかったからそのメロディは活かしておこうとか、ここにはこのメロディを入れておくけど、ちょっと後で直すかもねとか。ソファの上であぐらをかいて歌って、4畳半くらいのところでカチカチカチカチ前田くんがパソコンで作業して。そうやって作っていった曲です」
── 9曲目の「友達」は、アレンジがギターの名越由貴夫さんですね。これはまたちょっと毛色の違う曲ではありますが、でもYUKIさんらしい曲です。
YUKI「デモ楽曲を集めてもらうときに、ギターの弾き語りでも成立するような、ちょっとフォーキーな曲もやりたいと伝えて、そうして集まってきた中からこの曲に出会いました。プリプロでその曲の世界が決まっていくことが多いですけど、この曲もデモを聴きながら歌っていたら、すぐにこうなりました。私、とにかく人に歌を聴かせたいみたいですね(笑)。今回は特にそういう歌詞が多いですね(笑)。きっとアルバムを作っているときに、良い曲が出来たから早くみんなに聴かせたいという私の思いが強すぎて、歌詞にそれが色濃く出てしまっているんだと思います(笑)。この曲は、歌っていたら、〈あなたは私の友達〉という言葉が出てきて、これはこの世界でいけそうだと思って書き進めました。これは中学生の頃、友達が失恋して大泣きしたときの話です。その友達は本当に大好きな友達で、音楽の趣味も合って、クラスが違っても毎日手紙のやり取りをしたりして。ある日その子が大失恋してしまったんですけど、彼女が泣いていたので、どうにか元気づけようと思って。それで、体育館とつながっている渡り廊下に呼び出して、2人でしゃがんで「こういう歌があるからちょっと聴いて」と言って歌を歌って、またさらに泣かせたという……」
── 実話なんですね。過去のいろいろな友達との思い出が入っているんですね。
YUKI「校舎の窓に集まって、高嶺の花の彼を影までカッコいいと言って騒いだり、指定の朱色のジャージの裾を捲し上げるのがカッコいいと騒いだり、当時のいろいろなことを掘り起こして書きました。この曲でも〈傷跡〉が出てきて、これもいろいろな言い回しを考えましたね。最初に〈机の落書き〉というのが出てきて、削った跡がスリットだなと思って。これ、実は逆にしていたんですけど」
── 逆というと?
YUKI「最初は、机の落書きが私たちの傷だというふうにしていたんです。でも〈やわらかい傷跡が〉に変えました。机の傷跡、机の落書きが私たちをずっと見ていたということを書きたかったんです。自分たちが残してきたいろいろなこと、いろいろ変わったけど、この傷だけは変わらないということ。それを言いたかったんです」
── サウンドは初めからこのイメージだったんですか?
YUKI「ギターサウンドにしようということは決めていたんですけど、どういうリズムにするかということまではあまり決めていなくて、名越くんにアレンジをお任せしました。名越くんから「YUKIちゃん、こういうの好きだよね」とデモ音源が送られてきたんですけど、まんまとそれがカッコよくて、好きで、すぐに決まりました(笑)。オケのレコーディングは名越くんが錚々たるメンバーを集めてくれて。一緒に歌も録ったんですけど、楽しくてもう最高でした。クリックも途中で外しましたね。そのくらい、みんなすごいグルーヴなんです。録音しているときは皆さんすごく静かな方たちだったので“大丈夫かな?”と思っていたんですけど、レコーディングが終わったら、「楽しかったです!」と言ってくださって。“楽しかったんかーい!”って(笑)。名越くんはいつも歌を聴いてくれるんです。ギタリストで、歌を聴いてくれるタイプの人のプレイというのは、やっぱり素晴らしいんですよ。いつも問いかけに答えてくれる感じなんです。ライブでもそうですね。だから、この歌詞だから、こういうサウンドになったんだなと思います。切なくて大好きです」
── そして、「パ・ラ・サイト」は、昨年のファンクラブ会員限定ライブで披露されていた曲ですね。
YUKI「あのときはまだ歌詞が仮の状態で歌っていて、正式に録音するときに歌詞が少し変わりました。これは“little night music”で披露した曲なので、そのときのメンバーでレコーディングもしようと思ってみんなで集まりました。このメンバーとはファンクラブ会員限定ライブ4本と、フェスも一緒にやったので、レコーディングはとてもスムーズでしたね」
── これはファンクラブ会員限定ライブのときから激しいロックサウンドでしたね。
YUKI「この曲のデモの、元々のサウンドの雰囲気が気に入っていたので、そこは残しつつ、みなちん(皆川真人)と「すごく品のいいギターではない感じにしたいね」ということは言っていて、そこから音作りをしていきました。ただ、サウンドというのはプレイヤーの人柄が出るので、どうしても下品な感じにはならないんです」
── 出ちゃうんですね。人となりが。
YUKI「品は隠せないですよね。でも、最終的にはそれでよかったなと思います。この曲の主人公は若くて、まだいろいろなことを知らないんですけど、決して下品ではない。みなちんは最初、1番の歌詞しか聴いていなかったので、もっと悪い女の子をイメージしていて、アレンジも「もうちょっとバッドなほうがいいんじゃない?」と言っていたんですけど、全ての歌詞を書いて、いや、そうではない、彼女にはすごく好きな人がいたんだけど、その人とどうしてもうまくいかなかった。その人のことを思いすぎているんだけど、まだ若いからうまく立ち振る舞えない、不器用な子なんだということを伝えて。だから、サウンドの方向もこれでよかったと思います」
── 確かに1番だけ見るとそういう感じもありますね。
YUKI「こんなにいろいろな男の人と一緒にいられるのに、本当に好きな人とは手さえ繋げなかったんです。それを今でも後悔している。どうしてあのとき手を繋がなかったんだろうって。今度はきっとやり直すんだと思って、目が覚めて泣くような子なんです。だけど、また火星の柄のパンツをまたいだりする。それで、あんなに好きな人なんかもうできないかもと思っているけれど、その反面、早くドラマの続きを見たいなと、またやらかした後に思ってしまうというか。人ってそういう矛盾しているようなところがあると思っていて、そういう部分も入れたかったんです。だからこの子は毎回“あーあ”と思っているけれど、そこまで深く考えていない。若いときにはそういうこともあると思うんです。だから〈ドラマの続き早く観たいや〉という言葉が思い浮かんだとき、これでひとつ、この子のパーソナルな部分を表せたかなと思いました」
── 歌入れはどうでしたか?
YUKI「歌入れは、ぶっきらぼうにしたかったことと、あまり細かいピッチを気にしないようにしたかったので、ラフな歌い方をしています。ピッチよりもキャラクター重視というか。そこも含めて、この「パ・ラ・サイト」の、今日もまたどこかでこの子はパラサイトしているのかな、という不安定な感じが出せていると思います」
── 次は、シングル曲にもなっている「こぼれてしまうよ」です。
YUKI「これはもう私が言いたいことを全部言っていますね。歌詞もどれだけ書いたかわからないぐらい、いろいろな言い回しで書きました。そういう意味では、この歌詞は推敲に時間をかけたと思います」
── このデモを聴いたときは、初めからこういうアレンジになると思っていましたか?
YUKI「この曲は、アレンジを最低限の音でやろうと思っていました。デモを聴いたときは、この曲は絶対良くなる、とまでは実は思っていなくて、歌ってみたらもしかしたらいい感じになるかも、ぐらいのチャレンジでした。ブースに入ったら歌詞もツラツラと出てきて、そこで〈音楽は聴くよりも やる方が好きなんだよ〉とか〈でも もっと言えば 楽器を鳴らすより 歌う方が得意さ〉という歌詞がすぐに出てきて、自分で面白いことを言っているなと思って笑いました。そこから一気に書いて、〈そんなこと あたりまえの世界にしたいなあ〉まで出来ました」
── すごいですね。普通、考えて練って練って出すような詩になっているのに、歌いながらどんどん出てきた歌詞で、ここまで言いたいことがしっかり入っているなんて。そして、YUKIさんのそのままを表しているような歌詞ですね。
YUKI「それでいいと思うんです。何か難しいことを言っているわけでもないし、日本語で普通に日常会話ができればわかるようなことを書いています。私はまだまだ自分に期待しているんです。自分がまだできる、もっとできると本当に思っているし、毎回コンサートをやるたびに、もっとできるはずだと思っています。100%満足したことはないですね。でも、この間トレーニングをやっていて、先生に「YUKIさん、1回ずつ、できたことを喜んだほうがいいですよ」と言われたんです。これができなかった、もっとできるのに、と思っていたら、毎回の幸せ度みたいなものが低くなってしまう。やっぱりできたことを喜ぶことがすごく大事ですよと。それはなぜだろうと思ったら、私は、自分はもっとできるという期待がすごくあるんです。もっとやりたいし、もっとできると自分を信じているんです。今回、歌詞を書いていてそう思いました。いろいろなコンサートに行ったり、音楽を聴いていても、そうか、私はやっぱり自分で歌うのが好きなんだなと思ったんですよね。人の曲を聴いたり、ライブを観たりすると、私だったらもっとこうするなと思ってしまうんです。それでやりたいことが多すぎて、もう毎日クタクタです(笑)。次の日の朝になると復活して元気になってしまうんですけどね。その繰り返しです」
── この「こぼれてしまう」のは、やりたいことやポジティブな思いがこぼれてしまうんですか? それともため息や涙もこぼれしまうんですか?
YUKI「全部です。優しい気持ちもそうだし、自分にもっと期待したい気持ちもそうだし、ため息も、全部がこぼれてしまう。私はエネルギー過多だと思うんですけど、それもこぼれてしまうんですね」
── やりたいことがこぼれていますよね。
YUKI「だからとても忙しいんです。どうしてそういう気持ちになるのか自分でもわからないんですけど、そのわからないなという気持ちもたくさん入っています。〈どうしようもないこと くだらないこと 空しいこと〉というのは今までも言ってきましたけど、やっぱり自分の力ではどうしようもないことで世界は出来ています。でも、自分が得意なことや、好きなことを好きだと言ったり、それをしたり、例えばフィールドが違っても挑戦したり、それは自由ですよね。誰かに何か言われることではないんです」
── 今まであまり詩に使っていなかったネガティブな言葉も、今回はあえて使っているんですね。
YUKI「独白ですけど、やっぱり詩としてもきちんと読んでもらいたいので、そういう意味では、こういう気持ちをどう言おうかなと考えて書いたのが2番ですね。苛立ちをどういうふうに表現したらいいかなとか、悲しみとか空しさとかをもうちょっと表現できないかなとか、焦りや迷いを想像させる何かが欲しいなと思って、2番はいろいろ考えました。しかも言葉数がすごく多く入るメロディなので、じっくり時間をかけて作りましたね。〈誰の上にも見えるよ 白い紙吹雪〉という歌詞が一番気に入っていますけど、ここもかなりいろいろな言い回しで考えて。ただ街を歩いていて、すれ違う人たちにも見えたら素敵だなと思ったんです、白い紙吹雪が。みんな祝福されているんだということです。私にはそれが見えるんだということが歌いたかったんです」
── みんなもうそのままで素晴らしいよって。
YUKI「自分の良いところを見つけていかないとね。それには、そこが良いところだよと言ってくれる人が、家族でも友達でもいるといいですよね。やっぱり言われたら嬉しいですし。ということは、言われたら嬉しいことは相手にも言わないとですよね」
── そして最後は、「風になれ」。これはNHK「みんなのうた」でもオンエアされている曲です。勇気が湧いてくるような、力をくれる曲ですね。
YUKI「私も大好きです。これは「私の瞳は黒い色」でもアレンジしていただいたリトル・クリーチャーズの鈴木正人さんに再びアレンジをお願いしました。複雑なベースラインがこの曲の良さを引き出していると思います。このまっすぐな歌がさらに良くなりました」
── 風を受けて、すごく前に進んでいる感じがします。
YUKI「これはホーンの入る曲にしたいと私が言ったせいもあると思います。どちらかというと大人っぽい方向のアレンジではなくて、明るさを感じるアレンジにしたいと伝えました。オケについては、ドラムの演奏がとても難しいことをやっていて、テクニックがとにかく素晴らしいんですけど、そう聴かせないところが本当にすごいんです。いわゆるシンプルなリズムはないので、歌がとても入りづらいんですけど(笑)。これは本当に緻密にアレンジされているトラックです」
── 〈未来は見えないから 不安ではなくて / どんとこい! と 準備をするだけだ〉という歌詞も、またYUKIさんらしいですね。
YUKI「私にできることは、日々健康に、優しく、思いやりを持って、優しい言葉を発して笑って精一杯生きるだけなんです。未来のことを思って、こうなったらどうしようとか、起こってもいないことをあれこれ考えている時間は本当にもったいない。心穏やかではいられないことがあるかもしれないけれど、それはもう、心構えをしておくしかないというか。自分ではコントロールできないことはもう“どんとこい”と覚悟するだけなんです。何が来ても絶対私は大丈夫という準備をしておくことです。心も体も鍛えること、優しい言葉と思いやりを持つこと。それしかもうないですよね。不安要素に頭を使うのではなくて、やりたいことのため、明日の自分のために頭も時間も使うんです」
── 今回このアルバムが出来て、自分の中ではどんな感触ですか?
YUKI「大満足しています、本当に。いろいろなことを学習してきた自分が、今できる限りの能力を最大限に使って、すごく贅沢に、素晴らしいミュージシャンたちとアルバムを作ったという自信と誇りと感謝で溢れているというのが今の気持ちです。できるんだという自信と、やってきたことが実を結んでいるなということと、関わってくださるミュージシャンや楽曲を作ってくださった方々にも、こういう曲になってよかったとか、楽しかったとか、すごく喜んでいただけました。そういう一言一言も取りこぼさず、きちんと受け取ることができたということもすごく嬉しいです。でも、それはなぜかというと、私が健康で元気だからですね。具合が悪くなることもなく、レコーディングも順調に進んで。そういう満足感がすごくありますね」
── アルバムジャケットは、大きくスリットの入ったスカート1枚だけを身に着けたYUKIさんの写真になっています。
YUKI「『SLITS』という言葉が出てきたとき、同時にアルバムジャケットのイメージが湧いてきたんです。すごく長いスカートにスリットが入っていて、ということをスタイリストさんに話したら、スタイリストさんもすぐに思い浮かんだみたいで、迷いなくこのスカートを持ってきてくれました。それを強調したかったので、スカート以外は邪魔だなと思って、上は着ていないです」
── かなり大人っぽいですね。
YUKI「こういう自分を見たいなというものが変わってきていて、今回はアートワークも私からの発案が多いです。「こぼれてしまうよ」のミュージックビデオも、こういう感じにしたい、という私の意見から具現化していただいて。今回は、あまり作り込んでないものにしたいというのが私の中にはありました。そういった私の思いもスタッフには理解してもらえていたので、ありのままのYUKIを伝えられる作品になっていると思います」